郵便局

定期購読している雑誌の代金を支払うべく郵便局に赴いた。
他の銀行などだと払込用紙を窓口へ持っていって、係員に直接現金を
渡さなければならないが、そこは元お上が運営していた郵便局。最先端
の技術を駆使した自動預け払い機に払込用紙を挿入すると、用紙に書いてある
文字を読み取り、係員の手を煩わせることなく払い込みが出来る。そのため
手数料も安い。
こんな結構なことはないと、自動預け払い機に所定の用紙を挿入した。
すでに何回か払込をしていたので、すっかりベテランを気取って、鼻歌交じりで
軽やかに用紙を挿入したが、しばらくウンウン唸った自動預け払い機は用紙を
読み取れず、「たった数回やっただけでベテランを気取ってるんじゃないよ」と
用紙を吐き出した。何度か試したがその都度つき返され、ついには用紙を返して
くれなくなった。
係員がくるまで暫く御待ちくださいと仰るのでその様にさせていただくと、かなりの
時間暫く待った後、係員様が見えられておかけいただいたお言葉が「時間は大丈夫
ですか」という下々を気遣われるありがたいお言葉。
?ちょっと待てよ。時間は大丈夫かとの問いに「時間はありません」と答えたら
どのような対応を施していただけるのであろうか?無知蒙昧なる私には、時間が
あろうとなかろうと、用紙を自動預け払い機から取り出す以外にすることはないと
思うのだが・・・。本当は急いでいたが、そこは係員様の手前、大丈夫ですと答える
以外はなく、また、急いでますと答えて係員様の逆鱗に触れるとどのような天罰が
下るかわからない。
再びかなりの時間、暫く待っていると漸く係員様が私の払込用紙を手に戻られて、
もう一度別の機械で試してくださいとやさしいお言葉。え!返していただいた用紙は
機械に巻き込まれてくしゃくしゃになっている。綺麗な状態でさえ機械に巻き込まれた
ものをもう一度機械に挿入したら確実にまた巻き込まれると、無知蒙昧な私は思った。
せっかくの係員様の申し出ではあったが、また再び係員様のお手を煩わせる確立が
高いように思われたので、窓口で払い込むことを切望すると、係員様は不快な顔ひとつ
せず快く受け入れて下さった。それどころか、通常なら自動預け払い機より手数料が
高くなる窓口での払込にも関わらず、自動預け払い機の手数料でよいと仰る。なんと
寛大なる方だ。本来お手を煩わしたことに対する心づけが手数料なのに、通常よりも
さらにお手を煩わしているにも関わらず、安くてよいとは!ひょっとするともっとお手を
煩わせればタダになるのでは?・・・。ああ、お許しください、なんと不敬な私。係員様の
広いお心に甘えてとんでもない考えを起こしてしまいました。これも貧しさゆえのことと
お許しください。
窓口に行ってみると、私と同様の愚民が列をなしていた。
配給される整理番号を受け取ると、私は13番目であった。
その受付窓口の係員様はなんとお一人で愚民の訴えをお聞きになっておられる。
さすがは元お上が運営していた組織!愚民の愚劣な要望に惑わされることなく、確実に
ゆっくりと余裕を持って着実に訴えを処理されておられる。
今日、払い込むのは無理だと判断した私は、せっかく賜った整理券を、不遜にも打ち捨て
大郵便局の壮麗な楼閣を後にしようとすると、玄関ではまた別の係員様が記念切手を
殆ど通らない民のために、諦めることなく根気よく販売なさっておられた。
無知蒙昧な私は、切手が欲しければ窓口で買うのだから、そんな叩き売りのようなことを
する代わりに、払込の窓口で列をなす愚民の訴えを聞いてくれればいいのにと思ったのだが、
元お上の運営していた大郵便局には、無知蒙昧な私など考えも及ばぬ深遠な考えがあるのだろう。