ころころ

正式名称を知らないので、回転式粘着掃除用具をころころと読んでいる。
ころころを使って床のゴミを取っていたのだが、ホコリが着いてしまうとすぐに粘着力がなくなり、あっと言う間にテープがなくなってしまう。
もっと強力なころころはないものかと思っていたところ、超強力タイプが発売された。

早速購入し試してみた。
外側の紙をはがし、床に下ろす。ところが、床に接地したとたん動かない。ころころ出来ない。
思いっきり力を入れると、メリメリと言う音がする。
それでも意地になって力をこめて動かすと、バリバリと言う音と共にフローリングがはがれた。
「超強力」にも程がある。
ころころに着いてしまった木を取ろうとしたところ、不覚にも表面を手で触ってしまった。
取れない。

どうしたものかと思案に暮れていたが、そうか、ころころだから粘着の紙をはがして切り取ればいいのだと気が付いた。ひっついていない手で紙をはがすべく触ったところ、はがす前にまた手が引っ付いてしまい、はがせなくなった。
焦って、ころころの引っ付いた手をぶんぶん振っていると、壁に引っ付き動けなくなってしまった。こんなところで動けなくなってしまっては飢え死にする。自宅で遭難状態に陥るのは嫌だ。無理やりに引っ張ると、壁紙と下地の石膏ボードがバリバリとはがれ、何とか動きは取れるようになった。

しかし手についたころころは取れない。こんなものを手につけたままでは日常の生活が立ち行かない。両手がひっついてしまっているので、頭も掻けない。
数時間悩んだが、相手は紙であることに気付いた。おそらく水に弱いのではないか?
そう思いついて洗面所に行き、肘と顔で水栓をはさみ、何とか水を出してころころを濡らしてみた。
するとなんと言うことだ!水さえもころころに引っ付いてしまい、その引っ付いた水がどんどん増えていく。水は巨大な玉となり、だんだん顔に迫ってくる。このままでは溺れる!自宅で水難状態に陥るのは嫌だ。
ようやくのことで洗面所から脱出し、水から離れることができた。

水から離れることは出来たものの、水が顔すれすれなので、動くと水に顔が埋もれてしまい危険である。なんとか水だけでも取り除かなければならない。
相手は水だ。蒸発させればよい。
コンロの火をつけ、水だけを蒸発させるように近づいた。
その作戦は効を奏し、水は全て蒸発したが、換気扇も回さず窓も開けていなかったので、部屋はスチームサウナ状態。汗を拭くことも出来ず不愉快この上ない。
かくなるうえは最後の手段だ。足で包丁を取り出した。手の皮ところころの接合部分を包丁で切離すことも考えたが、包丁がころころに触れると何もかも無駄になる。となれば指を切り落とすしかない。意を決して指を切り落とした。指が引っ付いたままのころころが足の上に落ちた。