石投げ

1

川原で平たい石を見つけた。
子供のころによくやった石投げ遊びが懐かしくなり、やってみたくなった。
石の平たいところが、水面と平行になるように、横から勢いよく回転をつけて投げる。
石は円盤のように回転しながら、水面に弾かれ、ピョンピョン飛ぶ。
一回、二回、三回・・・。子供のころ、友人とその跳ねる回数を競ったものだ。
うーん、五回か・・・。挑戦欲を掻き立てられた。

2

慎重に、時間をかけてできるだけ平たい石を選び、再度挑戦。
今度は七回! しかし、まだまだこんなものではない。
選んでは投げ、選んでは投げ、かれこれ一時間ほど投げ続けたときだった。
勢いよく飛んで行った石が、途中で何かに当たって大きく跳ね飛んだ。
よく見ると、深緑色の亀の甲羅のようである。

3

その亀の甲羅のような物が、がばっと勢いよく浮上したかと思うと、現れたのはなんと河童だった。
河童は
「誰や石投げたん! お前か」
と怒鳴りながら、こちらに向かってくる。その姿は恐ろしげではあるが、手足は細く全体的に強そうではない。
背中に大きな甲羅を背負っているが、亀のように中に隠れられるのだろうかという疑問が湧いた。
「お前やろ、絶対、お前や。石、当たったやんけ、どないしてくれんねん」
河童は眼前で怒っている。しかし、口がくちばし状なので、発音がうまく出来ず、非常に聞き取りにくい。
「ああ、そうや。俺が投げたんや。何か文句あるんか」
一瞬、ひるんだ河童は、気を取り直して文句を行ってくる。
「何か文句あるんかって、ワレ人に石ぶつけといて何やその言い草は! こっちは痛い目に遭うとんねん。慰謝料出さんかい」
「そんなもん知らんがな。石投げて遊ぶんは誰でもやる普通のことやんけ。どこにも『石投げ禁止。河童に注意!』なんちゅう看板あれへんやろ。そんなとこ上がってくるお前が悪いんやんけ。それに『人に石ぶつけといて』って、お前人ちゃうやんけ」
自分の姿を見せれば、人間が怖がると思っていた河童は完全に虚を突かれびびっている。

4

これはチャンスだと思い、河童の皿の下から生えている髪をわしづかみにして、腹に膝蹴りを入れてみた。
河童はうめき声と共に崩れ落ち、うずくまるばかりで一向に甲羅に引っ込まない。
「なんやワレ、亀みたいにその甲羅に引っ込むんちゃうんかえ? それは見てくれだけか」
「うるさい、ボケ!」
と捨て台詞を残して、河童は転がるように水に逃げ込んだ。しまった、あんなに弱いのなら捕まえておけばよかった。
余計な邪魔が入ったが、気を取り直して、再び石投げを再開。

5

最高11回まで行ったが、その後は8回前後が続き、石を投げ始めて、かれこれ10時間になる。
もう肘と肩が限界に近くなっていた。これで最後と決めて、余計な力が入らず、理想の軌道で腕が振れるよう、心を無にして投げた。
ピーと言う高い風きり音と共に投げ放たれた石は、高速で回転しながら糸を引くように水面を跳ねて行く。
一回、二回、三回、勢いは失われずむしろ加速していくようだった。
ついにはこれまでの最高記録11回を超えたが、まだ失速する様子はなく、飛ぶ間隔も普通はだんだん短くなるものだが、むしろ長くなっている。
これで帰れる、と胸をなでおろすと共に、どこまで行くのかわくわくしながら見ていると、100mはある川の真ん中付近を越えた。
向こう岸には石油化学コンビナートの石油タンクがある。

6

まさかとは思いながら、石の動向を見ているとどんどん加速しながら、跳ねる間隔も広がっている。
もうすぐ向こう岸だと言うのに、止まらない。
大きな金属音が聞こえた。
次の瞬間、石油タンクは大爆発を起こし、キノコ雲が上がった。
爆風に吹き飛ばされて、石のように跳ねながら、体を飛ばされたのだった。