鶏南蛮の甘酢あんかけ

電車で婦人が買い物袋をガサガサ漁っている。やおら百貨店の包みを取り出すと、中から透明プラスチックのパッケージが出てきた。その中には鶏南蛮の甘酢あんかけが。まさか電車のなかで食べるんじゃないだろうなと危惧していると、あに図らんやパッケージを開けようとしている。箸も持っていない様子なのにどうやって食べるのだ?ただの唐揚げなら手づかみでも食べられるだろうが、あんかけでは手が汚れるだろうに。そんな心配をよそに婦人はなかなか開かないパッケージと格闘している。思い切り引っ張った瞬間、パッケージはバランスを崩しながら開き、反動で鶏の唐揚げが甘酢のあんと共に宙を舞った。宙を舞った鶏の唐揚げは、甘酢あんを撒き散らしながら向かい側に座っていた若い男の頭に着地した。ヘッドホンで音楽を聴きながら携帯をいじっていた男の、ジェルでツンツンに立てられた髪は甘酢あんで見る影もなくなってしまった。ゆっくりと婦人の方に視線を上げた男は、婦人の姿を見定めると勢いよく立って襲いかかろうとしたが、床に落ちた唐揚げ踏んで後方に転倒。図らずも男の足で押し出された唐揚げは、婦人の持っていた空のパッケージにすっぽり納
まった。ドロドロに汚れた唐揚げを男に投げつけた婦人は「楽しみにしてたのに!」と泣きながら叫んだ。