怖い話「宅配ピザ」

友人が今まで住んでいた部屋を出ると言う。本来なら一ヶ月前に出る旨を大家に伝えておかなければならないのだが、友人はどうしてもすぐに部屋を出たく、大家との交渉の結果、誰か変わりに入居する人を紹介すればすぐに出てもよいといわれたそうだ。
それで私にどうかと持ちかけてきた。私はもうひとり別の友人と二人で部屋を借りていて、家賃は折半で安かったがやはり狭く感じていた。そろそろ独りで部屋を借りようかと思っていたところにこの申し出だった。
心配なのは家賃だったが、尋ねてみると今の折半で払っている家賃よりも安い。その部屋には何度か遊びに行っていたので、部屋に関する心配はなかった。ワンルームだが十分今より広いし、日当たりもそんなに悪くない。友人の説明ではその友人が無理を言って出て行くので、半年は何割か家賃を負担してくれるので家賃が安いのだ。
早速次の日に友人の家に行ってみると、荷物はすっかりなくなっていて、流し台に宅配ピザの箱が置かれているだけだった。
一緒に大家の所に挨拶に行き、その場で鍵を貰い、契約書にサインした。
もともと荷物は少なかったのでその日のうちにすべて運んでしまった。とは言え、運び終えた時にはもう夜の十時になっていた。ほっと一息ついたところでインターホンが鳴った。「誰だろう?友人か大家かな?」と思って、玄関の扉を開けると、そこに居たのは宅配ピザの配達人だった。
「ピザお届けにあがりました」
低くくぐもった声でそういった配達人は、帽子を目深にかぶっていて表情がよく判らない。陰気な配達人だなと思いながら答えた。
「家は頼んでないですよ。隣じゃないですか?」
そう答えると、配達人は何も言わずに帰って行った。変な奴だなあと思いながら扉を閉めた。そういえば腹が減っている。ずっと引越し作業で何も食べていなかった。あ、ピザを頼んだ人のふりをして貰っておけばよかったと思った。
次の日も宅配ピザの配達人は同じような時間にやってきた。
「だから、家は頼んでないですって」
連日の間違いにすこしイラついた。
さらに次の日また同じ時間にやってきた。間違いだと言うと配達人が帰って行くかと思いきや、その日は違った。
「料金は結構ですので、召し上がってください。間違えてこのまま帰ると怒られますから…」
そういうとこちらの返事も待たずに、ピザを押し付けて逃げて行った。
仕方ないタダだというなら貰っておこう。あけてみると、普通のトマトソースのピザだった。食べてみると少し鉄くさ味だった。
三日も間違いが続いたので、昨日押し付けられたピザと共に貰った伝票に書いてあったピザ店に連絡してみた。
「もしもし○○ピザ、××店、ご注文でよろしいでしょうか?」
「いや、違うんです。そちらの△△さんて方いらっしゃいますか?」
「あ、またですか…」
「?、またってなんですか?」
「いや、実は△△はうちの店員だったんですが、配達途中で事故で亡くなったんですよ」
「え!じゃあ、あのピザは…」
「亡くなったのに未だにピザを配達してるんですよ。ところがそのピザは、トマトソースに事故で亡くなった時の彼の血が混じってるそうで、うちの評判がガタ落ちで参ってるんですよ。彼って、真面目なんですけど要領が悪くって、しょっちゅう間違えてたんです。彼も一生懸命やってるからそんなに厳しく叱らなかったんですが、本人が気にしてたみたいで。」
電話している最中に、インターホンが鳴った。
電話を切って玄関の扉を開くと、その亡くなった彼が立っていた。
「ピザお届けにあがりました」
血が混じってはいたがそれほどまずい訳でもないし、ただでピザが食えるのでそのままずっと届けてもらうことにした。