吸殻

仕事場の喫煙所は外部階段の踊場である。
そこに灰皿が置いてあるのだが、みるたびに灰皿が吸殻で山になっていて、誰も捨てる気配がない。気が付くと捨てるのだが、ふと「放って置いたら誰か捨てるのだろうか?」と疑問に思い、捨てずにそのまま放置しておくことにした。
山になっていてもやはり誰も吸殻を捨てない。
だからと言ってここで捨ててしまうと負けだ、と妙な意地が出てきた。
綺麗にしたい衝動を押えていると、やがて吸殻は灰皿から零れ落ち、遂には灰皿が見えなくなった。
それでも我慢していると次第に踊り場いっぱいになり、階段の手摺の隙間から吸殻がこぼれ落ちた。
やがて、踊場に出る扉の開閉も出来ずに扉は開けっ放しで、建物内部にまで吸殻が侵入してきた。
そうするうちにちゃんと消していなかった吸殻が燃え出し、もうもうと煙を上げ始めた。
慌ててバケツの水でなんとか消しとめたが、それでも誰も吸殻を始末しようとはしない。
やがて踊り場のあった五階は吸殻で一杯になった。
五階に止まったエレベーターにまで吸殻は溢れ、エレベーターも動かなくなった。
それでも吸殻を始末するものはいなく、また吸殻を捨てるのを止めることもなかった。
四階、三階と吸殻はどんどん進出し、やがて建物の前面道路まで溢れ出した。
そうなると、通りすがりの人まで「ここに吸殻を捨ててもいいのかな」と思い始め、加速度的に吸殻は増えてゆく。
役所から行政指導があったが、通行人まで捨てていく今となっては、なかなか撤去もままならない状態。
前面道路も遂には吸殻で埋め尽くされ、人も車も通れなくなった。
そして心配していたとおり、またもや出火し、今度は到底バケツなどで消せる規模ではなかった。消防車が何台も出動し、消火作業に当たったが、野次馬がどんどん吸殻を火に向かって捨てているので、一向に火勢は衰えない。
煙草の煙が辺り一体に立ち込め、近隣住民に避難勧告まで発令された。
空を覆い尽くす煙草の煙。日光は遮られ、昼間だと言うのに暗い。
その煙を照らし出すオレンジ色の炎。
空を覆い尽くした煙は三日間晴れず、やがて雨雲となって雨を降らせた。
その雨のおかげで火災は収まったのだが、今度は茶色いニコチンの溶けた水が、洪水となって街を襲った。
やがて雨はやんだものの、河川に流れ込んだニコチン水は川や、沿岸の魚介類を絶滅させた。

と言う警告文章が煙草の箱に書いてあった。(長すぎるわ!)