寝る男

地下鉄で若い男が座席で寝ている。
どういう訳か、若いヤツほどお尻を前に出して座る。
恐らく、なるべく胴を短く見せようという涙ぐましい努力なのだろうか、しかしその分、足が通路に飛び出して邪魔である。
それに列車事故などあった際、立ち上がるのに動きが遅くなるので、危険である。
その男もお尻を前に出して座り、寝ていたのだが、電車の揺れと共に徐々に体が滑り出してきた。
熟睡しているため、姿勢を直すことがない。
やがて尻は完全に座席をはずれ、背中と足で体を支えている状態にまでなった。
一駅、二駅と過ぎ、ますます体はずれ、ついには頭と足だけで体を支えている。
その頭さえもずれてきて、このままでは完全に後頭部を床で強打するだろうと思われた。
しかし次の瞬間、自分の目を疑った。その男は足だけで体を支え、ひざから上は空中に浮いていたのである。
他の乗客は、その男をまたいで通路を移動していた。