自転車

自転車に乗っていると大きな下り坂に差し掛かった。
お、これは楽だと調子に乗って下り始めた。本当に乗っていたのは調子ではなく自転車。
嘘話なので『本当に』と言っても嘘である。
坂はかなり急で、しかも長い。どれくらい長いかと言えば、そら、まあ、先が見えんくらい長い。
勾配もだんだんきつくなり、スピードがどんどん上がってくる。
スピードが上がりすぎついには車を追い越すほどになり、ブレーキも効かず、顔は風圧にゆがみはじめた。
それでもブレーキをかけていると、もくもくと煙が出てきて、ブレーキゴムが溶け出した。
ブレーキゴムが擦り切れてなくなると、火花が出始め、ついには発火。
炎に包まれたまま、やがて自転車は離陸した。いや、離陸したと思っていたのは勘違いで、坂の勾配が90度に達し、今や垂直な壁と化した道路から離れたのであった。離陸したと思ったのもつかの間、すぐに着地できた。
しばらく猛烈なスピードで走っていたが、今度は次第に上り坂になってきた。これでようやく止まることが出来ると思っていたら、上り坂は下ってきたのと同じくらい長く、最終的にはまた垂直になって、自転車は後ろ向きに走り出した。
こうしていつまでも帰れなくなり、泣いた。