寝癖

電車でふと頭を触ったところ、寝癖があった。
他の人に見られないようにそっと手に唾をつけて撫で付けてみても、寝癖は一向におさまらない。
何度も、周りの髪の毛と絡めたり、撫でつけたりしてみたが強情にはねたままだった。
そうこうしているうちに乗り換えの駅に着いたので、コンビニで整髪料でも買うことにした。

コンビにで整髪料と、はさみを買った。
はさみは最終手段である。まずは整髪料。
しかしなかなか気合の入った寝癖である。整髪料でも組み伏せられず、やむなく強硬手段に打って出るしかなかった。はさみである。
寝癖ではねているので、容易に掴むことが出来る。左手で寝癖の先を掴み、はさみでジョリっと切り取った。

ところが、切り取った位置が悪かったのか、まだ少しはねている。
苛立ちの極に達したので、寝癖部分の根元から切ってしまった。
結果は明白である。そこだけハゲになってしまった。
寝癖は根気よく対処すれば直るが、ハゲは一朝一夕には直らない。伸びるまで何日も掛かるし、周りの髪との長さが合わない。
仕方ない、他の部分も長さを揃えて切るしかない。

整髪料のところからは、会社に着いてから、会社のトイレで行っていた。
そして会社のトイレで怒りの極に達した挙句、自ら丸坊主になったものだから、周りの人たちは驚いた。
訳を上司に説明したところ、そんなことで丸坊主になってしまうとは、社会人として我慢が足りないのではないかと説教され、「明日から来なくていいよ」と言われてしまった。
クビになった原因は寝癖である。寝癖がつかない髪型といえば丸坊主
残っていた髪も綺麗に剃りあげて出家した。

出家して、坊主としての修行をしているある朝、目が覚めて驚いた。
耳たぶが折れ曲がっているのである。手で元の形に直してもすぐに折れ曲がってしまう。
何度やっても戻らない。苛立ちの極に達し、はさみを取り出し…。